大判例

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東京地方裁判所 昭和25年(ワ)2512号 判決

原告 小沢太次郎

被告 西村允伸

一、主  文

被告は原告に対し、金二十万円及び之に対する昭和二十五年四月二十七日より完済に至るまで年六分の割合による金員の支拂いをせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告に於て金七万円を供託する時は仮に執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、原告は被告より、金額二十万円、振出日昭和二十五年四月二十五日振出地東京都葛飾区振出人被告西村允伸、支拂人東京都葛飾区本田澁江町八百八十番地株式会社大阪銀行葛飾支店の持参人拂式小切手一通の交付を受けて之を所持し、昭和二十五年四月二十六日右小切手を呈示した所、解約後の理由で支拂拒絶されたので原告は支拂人をして右小切手に呈示の日附を表示し且つ日附を附した支拂拒絶の宣言を記載せしめた。仍つて原告は右小切手金並びに之に対する同年四月二十七日より完済に至るまで年六分の法定利息の支拂いを求める爲本訴に及ぶ旨述べ、抗弁に対して原告は昭和二十四年五月本件の金二十万円を利息の定めなく一ケ月の期限で貸付けたところ、被告は、期限に返済出來ないので一ケ月一万円の割合で損害金を、昭和二十五年一月二十六日から同年三月二十五日迄は一ケ月一万四千円の損害金を支拂つて猶予を求めたので之を受取つたが、これは原告が要求したものではなく、被告が任意に支拂つたものであり、右損害金は質屋業者の金利が一ケ月一割程度であり強制執行に於ても日歩二十銭の損害金が認められている現在では不当なものではないと述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め、原告主張の事実を全部認め、抗弁として、被告は昭和二十四年五月中、原告より事業資金として金二十万円を利息一ケ月五分期限の定なく毎月被告の振出す一ケ月期限の約束手形又は小切手で一ケ月毎に利息を前拂いして継続することを口約し、同年五月下旬原告より右金員を借用し、被告よりは一ケ月先日附金額二十万円の小切手を原告に交付し、同時に利息一万円は天引きされその翌月よりは利息一ケ月七分に値上げされ爾來一ケ月一万四千円を支拂い小切手又は約束手形の書替を継続して來た。而して原告は金融業者ではないから利息制限法第二條に違反し前記の如き高利で金銭の貸付は出來ない筈であり、原告の右貸付利息は物價統制令第十條に該当し暴利であるから法定の制限を超えた利息の支拂によつて原告は不当に利得していたこととなりこの部分の利息は被告に返還すべきである。年一割の利息として計算する時は現実に受領した金額十九万円(天引利息一万円は貸付金とならない)に対し昭和二十五年六月十日迄満一年一ケ月の利息は二万六百円であるから現実に原告に支拂つた利息十四万円との差額は被告において原告に対しその返還を請求できるものである。よつて被告は右返還請求権を以て対等額に於て相殺すると述べた。<立証省略>

三、理  由

原告が金額二十万円、振出日昭和二十五年四月二十五日振出地東京都葛飾区振出人被告西村允伸支拂人東京都葛飾区本田澁江町八百八十番地株式会社大阪銀行葛飾支店持参人拂式小切手一通の所持人であつて、昭和二十五年四月二十六日右小切手を支拂人に呈示した所解約後の理由で支拂いを拒絶され、右小切手に呈示の日を表示し且つ日附を附した支拂人の支拂拒絶の宣言を記載させたことは当事者間に爭いがない。

仍つて抗弁について考えるに、昭和二十四年五月被告が原告より金二十万円を借用しその支拂方法として毎月一ケ月先日附の小切手又は三十日満期の約束手形を交付して支拂を延期していたことについては当事者間に爭なく証人森吉平の証言、並びに被告本人尋問の結果によれば、右貸借は後記認定のような経過で森の盡力によりようやく成立した関係上森の助言により最初に貸付金中より一ケ月五分金一万円の利息を前拂の趣旨をもつて控除して交付しその後は被告に於て元金支拂の延期を求める都度任意に毎月五分(一万円)の割合による利息の前拂をした事が窺われると共に、被告本人訊問の結果成立の認められる乙第一、二号証並びに被告本人尋問の結果を綜合すれば昭和二十四年九月二十四日から昭和二十五年三月二十五日迄は右と同様の趣旨で一ケ月七分(一万四千円)の利息が支拂われたことが認められる(尤も昭和二十五年一月二十六日から同年三月二十五日の間一万四千円の金員を受領した事については原告も認める)が昭和二十四年九月以前一ケ月七分(一万四千円)の利息の支拂われた点については証明がない。

被告は、原告は金融業者ではないから右利息の控除及び前拂は利息制限法第二條違反であると共に物價統制令第十條に該当し暴利であると主張するが、前認定のように本件においては利息はすべて被告が進んでこれを支拂つたものであり、利息制限法第二條の法意は同條の制限を超えた利息は裁判上請求出來ない趣旨であつて既に支拂を済ませた利息につき制限超過部分の返還を裁判上認めるのでないことはいうまでもない。なお貸付の当初に控除せられた一万円についてもそれが利息前拂の趣旨である以上右と同様の理由でこの部分について消費貸借は成立しているといわねばならない。次に前記の如き一ケ月五分乃至七分の利息が物價統制令第十條に謂ゆる暴利に該当するかどうかについては同令の目的と現実の経済状態、当事者の契約当時の事情等諸般の事情を斟酌してその利息が社会観念上是認されるかどうかによつて決すべきものであるが証人森吉平の証言並びに原被告各本人尋問の結果を綜合すれば原告は被告より昭和二十四年二月頃融資の依頼を受けたが應じなかつた所、同年四、五月頃になつて証人森は自ら保証するから被告に二十万円の融資をして呉れと依頼し、一方原告は火災保険会社の外交員であつて、当時被告は右保険会社に支拂うべき保険料の未納が三万五、六千円あつて融資を得れば右未納の保険料の支拂いをすると云うし、又証人森も当時被告にゴムの加工代金八万五千円の債権があつて、被告が融資を得れば森も被告より右債権の弁済を受けて火災保険の未納金五万円を支拂うと云うので、原告は被告に本件二十万円を三ケ月の期限で貸與し利息については仲介の労をとつた証人森が「短期の貸借であるから一ケ月五分位が適当だろう」と述べた意見に從つて任意に被告より支拂われていたこと、その借用した金を被告は保険料を支拂つた外は事業資金に使用したのであるが、その弁済期が來ても被告は事業の都合上元本の弁済ができないために進んで利息の前拂をし後にはその増額すら自ら提議したのに対し原告は高利の獲得を希望するものでなくむしろ元本の回收を急いだものであつて、被告が長期に亘つて利息を支拂い且つこれを増額したのは原告の要求によるのでなく自己の営業のため元本の即時支拂よりこれを有利としたためであることが窺われ、現在の金融事情その他の社会経済状態と考え合わせると本件の場合必ずしも右利息を以つて暴利であると断ずることは出來ない。從つて被告の相殺の抗弁は、理由がない。

以上の認定に從えば被告は原告に対し本件小切手に基く二十万円及びこれに対する昭和二十五年四月二十七日より完済に至るまで年六分の割合による法定利息の支拂義務があることは明らかであつて、その求める原告の本訴請求は全部正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九條を、仮執行の宣言については同法第百九十六條を各適用して主文の通り判決する。

(裁判官 近藤完爾 和田嘉子 渡辺忠之)

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